《寄稿No.35》小日向美穂「恋の行方」
年の瀬も迫った今日この頃。師走の名のとおりにという言い回しをよく耳にしますが、事務所や学校のみんなも十二月らしくいろいろに動いています。
そんな特有の忙しなさや、浮き足立った雰囲気もしかし、わたしだけを取り残していきます。まるで早送りの映像の中に、一人うずくまっているかのように。
わたしは、悩んでいるのです。
おかげでお仕事の話なども馬耳東風、とうとう周りの人にも心配され始めてしまいました。
悩みというのは、アイドル活動のことでも、来るべき二学期の成績表のことでもありません。今、わたしの心を占めてーーあるいは絞めているのは、プロデューサーさんのことです。
これは個人的なーーいえ、先に挙げた二つも突き詰めればわたしの問題です。なんと言ったらいいのか……そう、本分ではないこと、というべきかもしれません。ただ、わたしの人生においてお仕事や学業が本分で恋愛が修飾品だという考え方には、議論の余地がありますが。人はパンのみにて生きるにあらずと言いますし、何に体重をかけて人生を送るかはそれこそ個々人の自由ですから……
閑話休題。
わたしはプロデューサーさんのことが好きなのです。
優しくて、頼りになる人です。何より、わたしを見つけてくれた人です。
世間一般と比較して、出逢ってから好意を抱くまでの時間はかなり短い部類だったと思います。ほとんど一目惚れに近いです。
こんな風に人を好きになったことなど初めてのことですから、プロデューサーさんと一緒にいるときは、お仕事とはまた別の緊張を強いられていました。動悸がして、顔が赤くなって、自分でも何を喋っているのかわからなくなることもありました。これに関しては、ずっと治らないかと思っていました。
悩みというのはここからです。
最近、彼と一緒にいてもドキドキしなくなってきたのです。むやみに顔が赤くなりませんし、動悸も滅多に起こりません。落ち着いて話をすることができます。
彼を好きになってからこっち、ずっと生じていた緊張がなくなり、均したように起伏のない心持ちなのです。
きっかけとなる出来事にも、まるで心当たりがありません。プロデューサーさんもわたしも、関係にヒビが入るようなことはしていません。ただ自然に、緊張が凪いでいったとしか言いようがないのです。
わたしはこう考えました。
わたしはもう、プロデューサーさんを好きではなくなってしまったのか、と。
だとしたら、わたしはなんて移ろいやすい人間なのでしょう。あのドキドキも、仮初めだったように思えてしまいます。
そんなことをぐるぐると考えてしまって、何も手がつきません。みんなにも迷惑をかけてしまっています。
このままではいけません。悩みを吹っ切る必要があります。
相談するのも恥ずかしい悩みですが、聞くは一時の恥とも言います。
幸い職場には相談できる人がたくさんいますから、頼ってみようと思います。
速水奏
なるほど、それが悩みなのね。
そうね……別に、プロデューサーさんを嫌いになったとか、そういうことではないと思うわ。あくまで私の考えだけどね。
ほら、最近美穂はユニット活動も忙しくなってきていて、仕事の方が充実しているでしょう。
いくら女性がマルチタスクに長けているとはいえ、そう色んなものに気持ちを割けるものではないわ。
今はたまたま、比重が仕事に傾いているだけよ。悩むほどのことではないと思うわ。
千川ちひろ
仕事が充実しているから、ですか……
そうですねえ……
……身も蓋もないことを言うようですけど、元々プロデューサーさんのこと、そこまで好きじゃなかったってことはないですか?
美穂ちゃん、お仕事のことでプロデューサーさんにとても感謝してるって言ってたし、それと恋愛感情を取り違えてるのかもしれませんよ。
職場だとプロデューサーさん以外はほとんど男性がいないし、これまでもあんまり男性と多く関わってきた訳じゃないだろうから、プロデューサーさんに目が行くのも、勘違いも仕方ないですけどね。
……わざと意地悪な言い方をしちゃいましたけど、こういう見方もありますから、そんなに気にしなくていいと思いますよ? 美穂ちゃんが最近心ここに有らずだって、みんなも心配してますから。
PCS
そんなことないですよ! 美穂ちゃんはちゃんとプロデューサーさんのことが好きです!
そうですよ! 悪魔の囁きに耳を傾けないでください!
プロデューサーさんと知り合ってもう随分経ってますし、慣れてきたんですよ。
それに、アイドルのお仕事を通じてメンタル面もきっと鍛えられてますから、多少のことでは動揺しなくなってるんじゃないかな。
そうだ! またプロデューサーさんと出掛けたりすれば、悩みも吹き飛ぶんじゃないですか? 卯月ちゃんの時みたいに休みを合わせて!
いいですね! それなら、今度の日曜日とかいいんじゃないですか? だってその日は……
相葉夕美
そっか。確かに美穂ちゃん、最近元気なかったもんね。
私も何か役に立ちたかったし、相談してくれて嬉しいよ。
そういうことならいい考えがあるんだ。
一ノ瀬志希
プロデューサーに慣れたからねー……一理あるかなー。
恋愛初期はドーパミンとかの興奮作用のあるホルモンの濃度が高まった状態になるから、ドキドキしたり顔が赤くなったりするんだ。
でも、ずっとそのままだと身体に悪影響を及ぼすから、一定期間を過ぎるとホルモンが分泌されなくなってくるんだよ。防衛反応だね。
そこで代わりに分泌されるのが、愛情ホルモンとも言われるオキシトシンなんかのホルモンなんだよ。その効果でストレスが緩和されたり多幸感を得たりするんだ。
つまり美穂ちゃんのケースで言うと、プロデューサーに出会ったばかりの頃はドーパミンが出てドキドキしてたけど、今はオキシトシンが出始めてその症状も弱まってきて、逆にプロデューサーといると落ち着くようになってきてるんだよ。
冷めたっていうよりかはむしろ夫婦みたいな距離感ってことなんじゃないかなー。あたしはフツーのことだと思うよー。
皆さんの話はそれぞれ別の視点ではありましたが、理解できるものでした。参考になります。でも、悩みがさっぱり解決というわけにはいきませんでした。
気に病むことじゃないというのは、元々頭ではわかっていました。言ってみれば、馬鹿らしい悩みです。それでもどこかモヤモヤした気持ちが払拭できないのです。
とはいえ、相談した五人に共通していたことは、わたしをとても心配してくれていたことです。これ以上の迷惑は掛けられません。
今日もお仕事です。腑抜けてはいられません。
雑誌の取材で、今回はプロデューサーさんも同行してくれます。今は事務所で彼を待っています。
卯月ちゃんと響子ちゃんが是非出掛けたらと言っていた日曜日が今日のことなのですが、この取材はどうしても日程を動かせないとのことなので、計画は断念しました。
「美穂、お待たせ」
プロデューサーさんが来ました。取材の出発時間には、まだ大分余裕があります。
見ると、プロデューサーさんは鉢植えを持っています。植わっているのは白いマーガレットです。薄いピンクのラッピングが施されています。
明らかにプレゼント用に仕立てたその花を見て、思い出しました。ここ最近頭を抱えて過ごしていたから忘れていましたが、今日はわたしの誕生日です。
「いやほら、今日誕生日だろ? それに、最近なんか元気なかったし……なんかプレゼントして驚かせようって思って! でも何買っていいかわからないから、夕美に相談したんだよ。そうしたらいい考えがあるって、誕生花っていうのを教えてくれたんだ。12月16日は白マーガレットなんだってさ。だから……」
手を後頭部や腰に忙しなくあてがいながら、プロデューサーさんは早口で捲し立てます。
余りにも分かりやすい。照れたときの癖なのです。
そんな可愛らしいような、可笑しいような様子を見ていたら、思わず綻んでしまいました。
出逢った時からわたしに動悸を起こさせ、赤面させ。
そうでなくなったらなくなったで、わたしを悩ませる。
ああ、この人はこんなにも。
心に乗る。
わたしが笑っているので、プロデューサーさんは咳払いをひとつ挟んで、
「とにかく、誕生日おめでとう! これからも頑張っていこう!」
「はい。一緒に」
これから先プロデューサーさんとわたしがどうなるかはわかりません。
ですが、わたしがちゃんとプロデューサーさんを好きなこと、ずっと一緒にいたいと思ったこと。
これらは事実です。もう、揺らぎません。
マーガレットが渡され、確かな重さが手に伝わります。
手の中の花を見てわたしは、この先待ち受ける日々がきらきらしいものになると、そう確信しました。
鉢植えには小さなメッセージカードが入っていて、白いマーガレットの紹介が簡単に書かれていました。
マーガレット
キク科モクシュンギク属。開花時期は11月~5月。白マーガレットは12/16の誕生花。
花言葉 : 恋の行方
了
あとがき
担当アイドルに何かしら貢献したいと思ってちまちまとこんな活動をしています。絵を描いたり物を作ったりが出来ないので、文を書くしかないのです。それも大したことにはならないのですから、わびしいものです。
対照的に、やるとなんでも出来る人というのもいます。羨ましいものです。
さて、今回のSSの一部のネタは、ある作家さんの作品から着想を得たものです(ご本人に諸々許可を頂いております)。
小雨大豆さん(Pixiv)という方の、「恋愛の科学」という2ページの漫画です。
小雨先生は漫画だけでなく小説やゲーム等も手掛けています。先に申し上げた「なんでも出来る人」です。
私の万倍面白いですから、是非先生の作品に触れてみてください。
読んでくださった方、ありがとうございました。
Writer:師匠(@wvIZEqg9xXpC8He)
小日向美穂P
寄稿の募集について
http://imas-cg.net/2017/11/24/52499323.html
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《寄稿No.35》小日向美穂「恋の行方」のコメント一覧
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- 2018年12月16日 00:27 ID: 2Sqc3FqG0
- 悪魔の囁きは草
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- 2018年12月16日 00:29 ID: zRlxBR8Z0
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便乗して個人的な妄想をたれ流させてもらうが小日向ちゃんは地元にちょっとやんちゃでいたずら好きだけど根は優しい幼なじみの少年がいて同級生からは夫婦だとかからかわれて否定するけどその子は密かに小日向ちゃんに惚れてるんだ
帰省する度に仲良く遊ぶし背が物凄く伸びて小日向ちゃんに驚かれたりもしながら成長して行って大人になってからも仲良く付き合いは続くんだけど少年の脳裏にはいつも「プロデューサーさん」のことを楽しそうに話す小日向ちゃんがチラついて色々辛かったりもするんだ
そして少年は物凄くいい男に成長して女の子からもモテるけど小日向ちゃん一筋で更に小日向ちゃんが「プロデューサーさん」と上手くいくように色々応援もしちゃうんだ
誰よりも近いんだけど決して埋まらないだろう距離に挫けそうになったりもするけど小日向ちゃんの幸せを必死に願って行動するんだ
最終的に小日向ちゃんがプロデューサーと結ばれるか少年の想いが届いちゃったりするかはこれまた妄想の余地があってたまらないんだなぁ
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- 2018年12月16日 00:34 ID: zRlxBR8Z0
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誕生日おめでとう小日向ちゃん
君と出会えて、君の担当になれてとても幸せです
これからもよろしくね
いつの日か必ず君をシンデレラガールにしてみせるから
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- 2018年12月16日 00:44 ID: gKZ.IUc.0
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>>2
たまらないんだまで読んだ
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- 2018年12月16日 00:45 ID: LucSNWAP0
- こういう、好き!ってパッションを表現出来るのはすごい羨ましい
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- 2018年12月16日 01:00 ID: HlTt3EBX0
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おもしろかった!
みほちゃんのかわいさがわかる文章でした。
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- 2018年12月16日 01:09 ID: WvTpt.6E0
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久々の寄稿で嬉しいわ
これだけの文を書くのって愛もそうだけど努力も要るから凄く尊敬する。面白かったです
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- 2018年12月16日 01:16 ID: N6joB1wb0
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良き
可愛さだけかと思いきや、
案外色んな面が見られる子よね
かと思えばアニバSRみたいに直球Cuでぶん殴ってくるというね
たまらんわ
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- 2018年12月16日 01:29 ID: YT3wkbub0
- 愛、まさに、愛。
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- 2018年12月16日 01:41 ID: S1FvzztZ0
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担当のお誕生日にこんな素敵な文が読める幸せに感謝
美穂の恋愛感情についてはいろんな解釈ができると思っているので、こういう切り口はすごく面白いし参考になるなあ
自分も美穂と出会ってもう7年、毎日モバマスでデレステでセロトニンのお世話になってます
出会ってくれてありがとう…
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- 2018年12月16日 02:50 ID: 4KwL5wqn0
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>>4
ぁまで読んであげて
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- 2018年12月16日 20:06 ID: t5ku.vUa0
- で、これ書いたやつにはいくら払われてんだよ?
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- 2018年12月16日 20:33 ID: RVHg.cpR0
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>>12
読まれてないから0だぞ
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